アジカン後藤「ミュージシャンを”お前らは不謹慎だ”と非難する社会に伝えたいこと」
アーティストとしてライブを完全に録音できないと語るほど、特別で上質な体験。ただ、20年に亘わたりライブハウスへ通う筆者も含めた“ライブ好き”の悩みどころが、“ライブハウスに行ったことがない人間に、コロナ禍のいま、どうその魅力を伝えるか?” である。大小問わず公演中止が相次ぎ、「一度でいいから試しに行ってみて」とも言えない事態へと陥ってしまった。
後藤はその実情も垣間見ながら、「もう少しライブハウスの側も自分たちのことを発信しなければならない」と関係者の1人として自戒の念も込める。ライブハウスなどへの助成金交付を求める運動「SaveOurSpace」に参加。実に30万筆もの署名が集まった支援活動の裏には、やはり“発信する意思”が大切だという思いが見え隠れする。
「確かに僕らが若い頃はライブハウス=怖いというイメージがあった。(ライブハウスに行ったことがない人に=編集部注)いきなり地方の雑居ビルに入ったハコに来いというのも酷ですし。でも、ハイスタ(Hi-STANDARD)以降、すごく身近な場所になったとも思う。等しくさまざまな現場から『困っているんだ』という声は上がるべきですよね」
「でも、エンターテインメントは1番最後でいいじゃないかという意見もあった。東日本大震災の時もバンドマンに対して『お前らは不謹慎だ』という声も聞かれたし、『スポーツよりは後!』みたいな空気も感じる。でも、それぞれの現場で、それぞれ切実に困っているわけだから、順位をつけずに声を上げるべきだと思う。そうすることで誰がどんなふうに困っているのかが把握・可視化されてくる」
日本には8000軒のライブハウスがあると言われる。しかしそれほどの規模でありながら、統一的な業界団体はない。それが支援の遅れをもたらすと共に、業界側が取り組んでこなかった課題を、コロナ禍が露呈させたとも言える。
海外では「文化支援」に資金を投入する国が見受けられるようになってきた。ドイツは文化支援に1200億円を投じ、コロナ時代に「(文化を創造する)アーティストは生命維持に必要」と明言している。そうした状況に後藤は、「日本の音楽は文化的地位が低いと感じることもある」と語る。
「ミュージシャンも、音楽って素敵だよと堂々とアピールしてこなかったこともあるだろうし、僕ら自身が“まあエンタメなんで……”と卑下するところがある。最近は、そうせずにやっていきたいなと思っている。音楽はある種のサービスみたいに消費されてしまう。地位向上ではないけど、もっともっとみんなの生活の中にあって、切り離せないものになっていくといいなという願いはある」
後藤はこう語る。
「大人達にもっと音楽を楽しんでほしいと思うんです。友達を見ていても、子育てが忙しくなるとどうしてもコンサートに行く余裕がなくなるのは分かるんだけど、そこからライブに帰ってきてくれないのが寂しい。
この間、ハイスタ(Hi-STANDARD)のライブに行ったら、昔好きだった人たちが戻ってきていました。ツアーでドイツに行った時にライブを見に行ったんですけど、2階席に家族連れが多くてびっくりしました。ライブを親子で楽しむことが浸透して、自分の子どもたちと好きな音楽を共有する、そんな文化が日本でも根付けばいいのにと思います」
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